Fisher

いろんな人がいて、いろんな本を読んでいる。コーヒーと夜の散歩と伊藤計劃がだいすきな25才が、 あんな本や、こんな本を、紹介します。

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ひとがほんとうはいるということ 「お家賃ですけど/能町みね子」

牛込の加寿子(かずこ)荘を加寿子荘と呼んでいるのは私だけで、それもこっそり呼んでいるだけのこと、加寿子荘には本名がない。不動産屋で紹介を受けたときには、「坂井荘」と聞いていた。でも、実際に来てみると建物のどこにも「坂井荘」とは書いていない…

勝ったとか負けたとかうるさいなあってさ 「世界は終わらない/益田ミリ」

書店員の土田新二・32歳は、後輩から「出世したところで給料、変わんないッスよ」と突っ込まれながらも、今日もコツコツ働く。どうやったら絵本コーナーが充実するかな? 無人島に持って行く一冊って? IKの自宅と現場を満員電車で行き来しながら、仕事、…

これがいのち 「卒業式まで死にません-女子高生南条あやの日記-/南条あや」

終止符/私はいつでも追いかけられている この世の中の喧騒(けんそう)とか 義務なんてチンケなものじゃなくて 自分自身に 誰も助けてくれない 助けられない 私の現在は錯乱している きっと未来も ならば 終止符をうとう 解放という名の終止符を 多弁で、個…

死んでもいいなんて言っていないし言うつもりもない 「春を背負って/笹本稜平」

先端技術者としての仕事に挫折した長嶺亨は、山小屋を営む父の訃報に接し、脱サラをして後を継ぐことを決意する。そんな亨の小屋を訪れるのは、ホームレスのゴロさん、自殺願望のOL、妻を亡くした老クライマー……。美しい自然に囲まれたその小屋には、悩める…

だれかがその波に乗っているのです 「大きな音が聞こえるか/坂木司」

「どうしてもやめられない。誰に何を言われても今、これがしたい。そんな欲求って、否定できないものよ」 サーフィンが好きな高校一年生の泳(えい)は、ある日、“終らない波”ポロロッカの存在を知ります。 「この波に乗ってみたい――」それにはまずは資金集…

モラトリアムをさがすモラトリアムに出掛けましょう 「夏美のホタル/森沢明夫」

写真家志望の大学生・相羽慎吾。卒業制作間近、彼女の夏美と出かけた山里で、古びたよろず屋「たけ屋」を見付ける。そこでひっそりと暮らす母子・ヤスばあちゃんと地蔵さんに、温かく迎え入れられた慎吾たちは、夏休みを「たけ屋」の離れで暮らすことに。夏…

わたしたちはだれを殺していますか 「青の炎/貴志祐介」

本当に、そうなのか。自分で思ったことに、疑問を呈したくなる。完全犯罪というのは、事実、そんなも稀(まれ)なことなのだろうか。 別れた父が現れ、酒浸り、母と娘を脅かします。 17歳の主人公は、警察や法律を頼るのですが、だれも家庭には踏み込めない…

言語ゲームははじまっています 「屍者の帝国/伊藤計劃・円城塔」

一、生者と区別のつかない屍者の製造はこれを禁じる。 二、生者の能力を超えた屍者の製造はこれを禁じる。 三、生者への霊素の書き込みはこれを禁じる。 屍者の利用が普及する19世紀末、舞台は大英帝国からはじまり、全世界へ。 機密を持ち出したカラマーゾ…

あなたはなぜ生きていますか 「K2に憑かれた男たち」

昔々、あるところに、登山家というへんな人種があったとさ。 夏になると、テントしょって、わざわざさみしい山へ入って、喜んだ。 冬になると、テントしょって、急にヤカンにアイゼン巻きつけ、山の中。 日本中の、山に登り、それでも足りずにヒマラヤまでも…

倫理の教科書はまだありません 「ぼくのメジャースプーン/辻村深月」

ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャン…

あなたへ 「ラストレター/木藤亜也」

お庭にあったげんのしょうこが、根こそぎ、引きちぎられてしまいました。じだんだ踏んで悔しいやら悲しいやらで、わめいていたところ、小さな苗をきのうみつけたのです。そのときの喜びといったら……何ていっていいかわかりません。 げんのしょうこは陰干しに…

いいえ、静かではありません 「喜嶋先生の静かな世界/森博嗣」

文字を読むことが不得意で、勉強が大嫌いだった僕。大学4年のときの卒論のために配属された喜嶋研究室での出会いが、僕のその後の人生を大きく変えていく。寝食を忘れるほど没頭した研究、初めての恋 「いまひとつわからない」ことばかりのなかで、ひとつひ…

いたたたたい 「UNTITLED/飛鳥井千砂」

食材は火曜日から仕事帰りに少しずつ買い足して、今朝はいつもより早く起き、お弁当を作りながら、ついでにできる限りの下拵えをしておいた。そして定時きっちりで仕事を終らせ、走って家に帰ってきた。 31歳、実家暮らし。生真面目で、自分にも他人にも厳し…

すらばしくないってことは、ぜんぜんだめってことですか 「生きるぼくら/原田マハ」

いじめから、ひきこもりとなった二十四歳の麻生人生(あそうじんせい)。頼りだった母が突然いなくなった。残されていたのは、年賀状の束。その中に一枚だけ記憶にある名前があった。「もう一度会えますように。私の命が、あるうちに」 たったひとりの肉親を…

純粋でもいいのです 「トリツカレ男/いしいしんじ」

ジュゼッペはみんなから「トリツカレ男」ってあだなで呼ばれている。 一度なにかにとりつかれちゃうと、もう、ほかのことにはいっさい気がむかなくって、またそのとりつかれかたが、そう、ちょっと普通じゃないんだな。 たとえばおととし、あるきもちのいい…

見えるものしかわたしたちには見えないのです 「ベンハムの独楽/小島達矢」

しばらくして、私は《まばたき》によって、二人の体を行き来しているのだとわかった。早紀の身体にいるときに《まばたき》をすると、次の瞬間で真紀になり、同様に真紀の場合は、一瞬にして早紀になるのだ。 未来が見える男、ヒトデに魅せられた二人、ポケッ…

せんせい、ねえ、せんせい 「きみはいい子/中脇初枝」

17時まで帰ってくるなと言われ校庭で待つ児童と彼を見つめる新任教師の物語をはじめ、娘に手を上げてしまう母親とママ友など、同じ町、同じ雨の日の午後を描く五篇からなる連作短編集。 ある日とつぜん、名前が付く。だけど、こころは、それまでと同じなの…

あした、いいえ、こんばんのわがみ 「床下仙人/原宏一」

「家の中に変な男が棲(す)んでいるのよ!」念願のマイホームに入居して早々、妻が訴えた。そんなバカな。仕事、仕事でほとんど家にいないおれにあてつけるとは! そんなある夜、洗面所で歯を磨いている男を見た。さらに、妻と子がその男と談笑している一家…

ブイヨンって呼んでもいいし、コンソメって呼んでもいいですよ 「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん/友井羊」

店主の手作りスープが自慢のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。 元気なとき食べるご飯は美味しいけれど、美味しいスープはこころを満たしてくれます。 仕事や人間関係、現代を社会の中で生きるつかれたひとたちが、吸い寄せられるように「…

これまでとはまったくちがう世界に行けば、まったくちがうわたしになれるはずなのです 「結婚式のメンバー/カーソン・マッカラーズ」

このろくでもない夏、彼女とジョン・ヘンリーとベレニスという「わたしたち」が存在したが、それはどう考えても願い下げたい種類の「わたしたち」だった。でもそんなことはすべて出し抜けに終わりを告げ、様相が一変してしまった。そこには兄とその花嫁がい…

なまえで 「わたしをみつけて/中脇初枝」

施設で育ち、今は准看護師として働く弥生は、問題がある医師にも異議は唱えない。なぜならやっと得た居場所を失いたくないから。その病院に新しい師長がやってきて――。 当然のように、患者とその家族主体の医療を実践する師長を、はじめはみんな冷やかします…

ひとはどうして働くのでしょうか 「昼田とハッコウ/山崎ナオコーラ」

頑張ったところで、給料は変わらないのだし、どうして熱くなる必要があるのかはわからない。社会にコミットしたいのかもしれない。 「アロワナ書店の七不思議のひとつ目」を話し終えた父が急死。 店長のハッコウといとこの昼田は、協力してアロワナ書店を存…

青春の最高潮と最終点 「少女は卒業しない/朝井リョウ」

伸ばした小指のつめはきっと、春のさきっぽにもうすぐ届く。つめたいガラス窓の向こうでは風が強く吹いていて、葉が揺れるのを見ているだけでからだが寒くなる。もう三月も終わりなのに、朝と夜は手足がつめたい。こんなにも真っ暗でつめたい世界が数時間後…

わたしはどうすればわたしになれますか 「少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹」

「雪風」 「七竈」 「雪風」 「七竈」 「雪風」 「七竈」 わたしたちはたがいの名前を呼びあった。いつのまにか背後に父はいず、薄暗い部屋には代わりに、雪風の弟妹があふれて、走ったり泣いたり笑ったりしはじめた。七歳から十一歳までの、たくさんの弟妹…

逃げ道をみつけられるひとになってください 「ちょっと今から仕事やめてくる/北川恵海」

この優しい物語をすべての働くひとたちに 勤務時間が長いから、営業が取れないから、上司の理解がないから、だから仕事はつらいのでしょうか。 わからないのです。 つらくない状態を知らないから、なにがつらいのかも、わたしたちにはわからない。 そもそも…

だれにも代りはつとまらない 「座敷童の代理人/仁科裕貴」

作家として人生崖っぷちな妖怪小説家・緒方司貴(おがたしき)が訪れたのは、妖怪と縁深い遠野の旅館「迷家壮」(まよいがそう)。座敷童がいるという噂の旅館に起死回生のネタ探しに来たはずだが、なぜか「座敷童子の代理人」として旅館に集まる妖怪たちの…

遮断されていく現実 「探偵・日暮旅人の探し物/山口幸三郎」

保育士の山川陽子(やまかわようこ)はある日、保護者の迎えが遅い園児・百代灯衣(ももしろてい)を自宅まで送り届ける。灯衣の自宅は治安の悪い繁華街にあり、日暮旅人と名乗る灯衣の父親は探し物専門の奇妙な探偵事務所を営んでいた。 澄んだ目をした旅人…

この痛みをあなたは知らない 「星やどりの声/朝井リョウ」

そのあと父は、「星やどり」の意味をわかりやすく説明してくれた。雨から身を守ることを雨やどりというだろう。ここは満天の星が落ちてこないようにする「星やどり」だ。 亡き父が遺した喫茶店とビーフシチュー。母と六人の子供たちは、それぞれ、愛する人の…

ひとの代りにはなれない。思いの代りにはなれますか 「お待ちしています 下町和菓子 栗丸堂/似鳥航一」

和菓子の味わいは心にもやさしい 浅草の一角にある和菓子兼甘味処『栗丸堂』。 死んだ両親の和菓子店を継いだ栗田は、日々腕を磨き、従業員や、地域のお得意さんとともに、なんとか切り盛りしています。 見た目はそっくりおなじに作れる、みんな、美味しいっ…

二時間きっかりでよみきれば 「仮面病棟/知念実希人」

療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る――。 ラバー製のグロテスクなピエロのマスクを被った立てこもり犯。身寄りのない患者ばかり収容…

人生はゲームじゃない 「さよなら、ベイビー/里見蘭」

高校を中退すると告げたとき、一度だけ将来はどうするつもりなのかと父に訊(たず)ねられたことがある。返事をする代わりに目の前にあったマグカップをつかんで食器棚に投げつけていた。ガラスが砕け破片が飛び散る大音量が轟(とどろ)きわたった。世界が…

実際的な暴力の顕在 「ねじまき鳥クロニクル/村上春樹」

彼女はシャワーに入って、服を着て、また日溜まりの中に座った。どう言えばいいのかわからなかったので、僕もその隣に座ったままなんとなくずっと黙っていた。太陽が移動すると、僕らもそれにあわせてちょっとずつ移動した。 家を出た妻を取り戻したい主人公…

ありがとうって伝えたら、あなたに届きますか 「出雲新聞編集局日報 かみさま新聞、増刷中。/霧友正規」

八百万の神々が集う街、出雲にある小さな新聞社――出雲新聞編集局の仕事は、神様向けの地方紙“かみさま新聞”を発行すること。新人記者の悠馬(ゆうま)は、就職早々その記事制作を任されてしまった! 人間がなにに困り、神様をいかに必要としているか、それに…

駅長には駅長の仕事があるのです 「一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常/二宮敦人」

郊外を走る蛍川鉄道の藤乃沢駅。若き鉄道員・夏目壮太の日常は、重大な忘れ物や幽霊の噂などで目まぐるしい。半人前だが冷静沈着な壮太は、個性的な同僚たちと次々にトラブルを解決。そんなある日、大雪で車両が孤立。老人や病人も乗せた車内は冷蔵庫のよう…

わたしたちはみんな消えてしまうのかなあ 「世界から猫が消えたなら/川村元気」

「この世界から何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得る」 郵便配達員の僕はある日とつぜん、余命を宣告されます。すると同時に悪魔のアロハが現れて、取引を持ち掛けてきます。 電話が消える。僕らはもう話せない。 映画が消える。僕のエンドロー…

ほんきの京都、ほんきの料理 「鴨川食堂/柏井壽」

縁あって辿り着いた客は、もう一度食べてみたいものに出会えるという。夫の揚げていたとんかつを再現したいという女性、実母のつくってくれた肉じゃがをもう一度食べたいという青年など、人生の岐路に立つ人々が今日も鴨川食堂の扉を叩く。 店主流と娘のこい…

芸術はどこにありますか 「ネオンと絵具箱/大竹伸朗」

今まで目の前になかった「質感」を伴う世界が「外側」と「内側」で共振し始める瞬間、それら二点間にスーッと一本の頼りない蜘蛛の糸が風に揺られてフラフラユラユラと伸びていく思いがする。 その糸の「質感」に触れる気持ちは非常に微妙であやうい。そのあ…

全知ル 「know/野崎まど」

「科学が求めるものはなんだ?」 それは問題だった。 先生が僕に出した問題だった。 僕は考えた。考えた。考えた。 けれど僕は答えられなかった。 初めて会った時から僕は、先生に一度も追いつくことができなかった。 「“全知”だよ」 舞台は、超情報化社会で…

もうめまいは起きている 「推定少女/桜庭一樹」

最近の子はみんな殺人鬼。 ぼくはもう、家に帰って、話を聞いて下さいじつはこうなんです、などと説明する自信がなかった。逃げよう、とばかり思っていた。 逃げ込んだダストシュートの中で、全裸の美少女を見つけます。 「白雪」と名前をつけて、逃走仲間に…

ほんとうにひとが死んでいるということをわたしたちはしらない 「監察医の涙/上野正彦」

全ての検視に、ドラマがある。全ての死体に、真剣に耳を傾けるべきである。真剣に向き合えば、生きている人間も死んだ人間も、真実を語りだすものである。 虐待、自殺、過労死、無理心中。生涯をかけ、二万体の検視を行ってきたひとりの監察医により、ひとつ…

ゆめうつつ 「木挽町月光夜咄/吉田篤弘」

その名を吉田音吉という。おときち、である。いい名前だ。自分でもいい名前であると自惚れたのか、音吉は鮨屋の屋号に自分の名前を冠して『音鮨』と称した。いい名前である。これにはさっそくぼくもあやかりたくなって、自分の架空の娘を吉田音よしだおんと…

失いながら生きていくしかありません 「不機嫌なコルドニエ 靴職人のオーダーメイド謎解き日誌/成田名璃子」

横浜・元町の古びた靴修理店「コルドニエ・アマノ」。几帳面で偏屈ながら確かな腕をもつ店主・天野健吾のもとには、奇妙な依頼ばかりが舞い込んでくる。霊が憑いている靴を修理してほしい、ハイヒールの踵をとってフラットにしてほしい――。天野は「靴の声」…

夏休みに読みたい本 《3》

夏休みですね。 大人も子どもも、数週間、数日でも、夏休みはあるでしょうか。 あるといいですね。もしもなくても、夏はありますから、時間以外で楽しみましょう。 たくさんはしんどいかもしれないから、三冊、本を読んでみませんか? 本を読みたい人へ 本が…

わたしたちには叶えてほしいお願い事がある 「こんこんさま/中脇初枝」

この、廃屋と見まごうほどに朽ちかけた屋敷を、近所のひとたちはこんこんさまと呼ぶ。茫漠とひろがるこの庭のどこかにこんこんさまと呼ばれる神様が祀られているからだというが、現在の住人はだれもその社を見たことがなく、その社がどこにあるのかさえ知ら…

わたしたちはだれだかわからない 「残念ねーちゃんの捜索願い/佐原菜月」

残念な姉に取り憑く謎の声!? 非日常的コメディサスペンス! 声になったオッサンは、幽霊か、はたまた幻想、二重人格? 手がかりゼロの状態から、取り憑かれた姉の利津(りつ)と、弟の楽人は調査を開始します。やがてある男の死体が発見され、幽霊の正体がす…

後悔してもいいですか 「コンビニたそがれ堂/村山早紀」

駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたりに、夕暮れになるとあらわれる不思議なコンビニ「たそがれ堂」。大事な探しものがある人は、必ずここで見つけられるという。今日、その扉をくぐるのは……? 慌しく過ぎていく毎日の中で、誰もが覚えのある戸惑…

居場所を見つけませんか 「晴れた日は図書館へいこう/緑川聖司」

茅野しおりの日課は、憧れのいとこ、美弥子さんが司書をしている雲峰市立図書館へ通うこと。そこでは、日々、本にまつわるちょっと変わった事件が起きている。六十年前に貸し出された本を返しにきた少年、次々と行方不明になる本に隠された秘密……。 図書館と…

わらって話せば笑い話 「生きるコント/大宮エリ―」

うちのおとんは、かなり古風な人間で、わたしが大学に行くこと自体、反対だった。 「大学になんか行かなくていい。花嫁修業をしろ」 時代錯誤もいいところである。東大を受験すると言うと、おとんは失神しそうになりながら叫んだ。 「お前、そんなことしたら…

語らなければ、この人生は、なかったことになりますか 「ユリゴコロ/沼田まほかる」

私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか。脳の中ではいろいろなホルモンが複雑に作用しあっていて、そのバランスがほんの少し変化するだけで、気分や性格がずいぶん変わるのだとか。 そちらの方面の医学的研究がこれか…

このしゅんかんのために生きてきたっておもうしゅんかん 「僕は奇跡しか起こせない/田丸久深」

十歳で突然死んだ幼なじみの真広は、養護教諭になった二十五歳の紗絵の前にいまも姿を現す。人々に幸福をもたらす「キセキ」として。世の中の奇跡のほとんどは、じつは彼ら「キセキ」たちがこっそり手助けすることによって起こっているという。 どんな姿にな…