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いろんな人がいて、いろんな本を読んでいる。コーヒーと夜の散歩と伊藤計劃がだいすきな25才が、 あんな本や、こんな本を、紹介します。

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ひとがほんとうはいるということ 「お家賃ですけど/能町みね子」

 

牛込の加寿子(かずこ)荘を加寿子荘と呼んでいるのは私だけで、それもこっそり呼んでいるだけのこと、加寿子荘には本名がない。不動産屋で紹介を受けたときには、「坂井荘」と聞いていた。でも、実際に来てみると建物のどこにも「坂井荘」とは書いていない。「坂井」「坂井定吉」という二つの表札だけがあってアパートらしき様子もなく、どう見てもただの「坂井さんち」です。

 

加寿子荘で暮らす著者がつづる、ちいさな日常。仕事の話、加寿子荘の"二階奥"と"二階手前"、家族、季節、後半体調不良。

本書の魅力は、語り口のしずかさにあります。

けっして、すべてを説明しないのは、読み手に承認を求めた文章ではないからでしょう。

だからこそ、気持は吸い寄せられていきます。

 

なにしろ初めての体験だから、いろいろな意味でちゃんと噛みくだいておかないといけない。噛みきれないのも分かっているけど。

 

ほんとうにひとがいる、ということ。

 

加寿子荘で暮らす人、性転換手術をした人、日常を綴る人、生きている人が、ここにいます、ほんとうに。

 

すっごいひとばかり、ぶんなぐってくる物語ばかり知って知って知っても、やっぱり、ちゃんといるのです。

わたしもあなたも、それぞれの現実と時間を生きているのです。

 

孤独なひとにおすすめしたい、エッセイ集です。

 

お家賃ですけど (文春文庫)

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