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いろんな人がいて、いろんな本を読んでいる。コーヒーと夜の散歩と伊藤計劃がだいすきな25才が、 あんな本や、こんな本を、紹介します。

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語らなければ、この人生は、なかったことになりますか 「ユリゴコロ/沼田まほかる」

  

私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか。脳の中ではいろいろなホルモンが複雑に作用しあっていて、そのバランスがほんの少し変化するだけで、気分や性格がずいぶん変わるのだとか。

そちらの方面の医学的研究がこれからもっと進めば、人殺しが治る薬というのもできるのかもしれないと、そのとき思いました。

もし現実にそのような薬ができたなら、やはり私も飲んでみると思います。

殺したいから殺すというだけで、罪悪感など持たない私ですが、それでも人殺しが止まるというのなら、やっぱり飲んでみたいものです。どうしてなのか、我ながら不思議です。

 

「ユリゴコロ」と題された4冊のノートと、遺髪が見つかります。恋人が失踪し、母が事故死、父親は余命いくばくかという、ふってわいたような不幸のなか、主人公は手記とも創作ともわからないノートを読み進めます。

殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白は、いつしか、主人公自身の物語であるようにも思えてきて……。

「ユリゴコロ」のパートが、これでもかというほど美しい文章で構成されています。

物語としては、やや、現実から遠いミステリですが、後半は、ひたすら、純愛の要素を帯びてきて、さいごは大団円です。

 

着ているものを脱いだとき、私の全身はヌスビトハギの小さな種でいっぱいでした。ちくちくと肌を刺激する数えきれない種が、あらゆるところでアナタの指に剥がされるのを待っています。剥がされても剥がされても、新しい種がとめどなく生まれ続けます。アナタに触れられなければこんなことは起きません。アナタは私を剥がして剥がして消してしまわなければなりません。

 

なかったことには決してならない。消えてなくなったりはしない。

 

どんなに望んでも、望んでなんかいなくても、命には取り返しがつきません。

 

本を読む気分をわすれてしまったときに、ぜひおすすめです。

いやおうなしに、あなたの指はページをめくるでしょう。

  

ユリゴコロ (双葉文庫)

ユリゴコロ (双葉文庫)

 

 

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